アラカルト

パブリックヒストリーと温故知新

寒気が来ると雪が降りますが、かなり強い風が来ます。この時期は木々の枝が風で飛ばされ、落ち葉ではなく木片が散乱します。時期によって落ちてくる物が変わりますし、強い風がもたらす意味を肌で感じます。◆最近、写真の本を頂きました。笠井賢紀・田島英一編著『パブリック・ヒストリーの実践』(慶応義塾大学出版会)です。執筆者一同でお送りいただいていますが編著者の方には直接面識はなく、竹山和弘さんが執筆に入られているので、リストに上がったのでしょうか。この場をお借りして御礼を申し上げます。ところで、「パブリック・ヒストリー」についてはよく知りませんでしたが、一般的には歴史学の知見や技能を社会に活かす幅広い実践を指し、歴史学や社会学、文化人類学などの学問分野と歴史実践の現場をつなぎ、一般市民が担う歴史実践から、新たな視野をひらくことを目指しているようです。私は大学時代美術史学・民俗学・考古学・歴史学の分野に身を置いてきましたが、どちらかというと既存学問は事実を掘り起こすことが目的となってしまい、今や未来とどう結びつけるのかという議論が十分進まないことに疑念を感じていました。その後、博物館学・展示学・アートマネジメントの分野に転身し、今はそれに加えて文化政策・公共経営の分野に身を置いていますが、まさにそれぞれの分野でパブリックヒストリー的な実践もしてきたのかなとは思います。そういう意味で思い出すのが竹内誠先生(1933-2020年:歴史学者)です。彼は江戸時代の歴史を研究する学者でしたが、その後長く江戸東京博物館の館長を務められました。私が東京にいた時代に歴史学会の理事をしていたのですが、たまたまその時の会長さんでいろいろ交流をさせて頂きました。とくに彼は歴史を単なる事象として整理するだけでなく、その知見をどう広く応用するのかを常に考えていた人でした。歴史学者の中ではとても変わっていたと思いますが、とても意気投合したのを覚えています。彼は、常に「歴史学は<温故知新>でなくてはならない」とおっしゃっており、ある意味当たり前のことですが、なかなかそれを実践できない現実も一方であるようにも思います。少しでも研究成果が一般や地域に開放され、応用が広がっていくことを願うばかりです。

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│-│-│2025/02/07(金) 11:14

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