アラカルト

生活の原点

どこかの本屋で手にして、面白そうだと思って読んだのが雨宮国広さんの『ぼくは縄文大工』(平凡社、2020)。最初はどんな人か意味がわからなかったのですが、元々大工修行をしているうちに石斧に興味を持ち、石斧で家を作るようになってしまった人の話です。ご自身の生活もほぼ縄文人のようなスタイルになり、その生活実践を通して歴史を探究しているという側面もあります。他人から見れば超変人ですが、私からみたらとても貴重な方です。私は以前書いた本で「リアル・ライフ・ミュージアム」という概念を提示しました。博物館で勾玉作りをするのがいけないとは言いませんが、もっと生活体験的なプログラムを提供することと、研究として生活実践研究をすべきである旨のことを書きました。そういう意味で、記録の方法に課題はあるものの、雨宮さんは実践研究者であると言えます。そのこで思い出すのが、三重県におられた山崎三四造(やまざきみよぞう:1931年〜2018年)さんです。彼は1989年から2006年の17年間、自分で建てた竪穴式住居で縄文生活を送られたのです。東日本大震災を機に、竪穴式住居の機能性について関心を持った私は、2012年に一度山崎さんにアポイントをとってみましたが、当時痴呆症を患い施設に入られていて、お会いすることは叶いませんでした。私たちは日々電気に頼ってばかりの生活ですが、このような状況は人類史においてまだ100年も経ていません。雨宮さんや山崎さんの行為は、歴史観の再考だけでなく、生活の原点というものを見直すヒントになると思っています。

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│-│-│2020/12/10(木) 22:12

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