アラカルト

「学芸員はがん」発言と、その問題の本質と課題、そして改めて「学芸員10倍構想」

2017年4月16日、地方創生担当相の山本幸三氏は、大津市内での講演後、地方創生に関わる質疑中に「一番のがんは文化学芸員と言われる人たちだ。観光マインドが全くない。一掃しなければ駄目だ」という発言をし、博物館学芸員を痛烈に批判して問題になっている。

その後、自身の発言が言い過ぎであったとの釈明を行っているが、個人的には学芸員の仕事について何もわかっていないという印象をもった。

日本の学芸員は「雑芸員」とも呼ばれるくらい、1人の人間が様々なことをしている。独立行政法人制度や指定管理者制度の導入により、より状況が悪化している。その背景に赤字財政の問題が大きく、文化にまで十分手が届かないのが実情である。文化は利益を生みにくいので、財政が悪化すると文化から切り捨てられる。たとえ箱はつくっても人は十分つけないのである。非常勤の割合も高まっている。まともな館長がいるところの方が少ない。

我々は20年前からいわゆる文化資源を活かすミュージアムマネージャーやミュージアム・エデュケーターをもっと育成し、設置すべきであるということで、提言と実践を行ってきた。なぜなら、例えば「一掃の引き合い」に出された大英博物館ですら職員数は1000人規模であるのに対して、東京国立博物館は100人規模なのである。底力が全く違うのである。大英のやり方も疑問ではあると思うし、観光に理解を示さない職員にも問題はあろう。

日本ははっきり言ってまだまだ文化後進国である。ヒューマンメディアに対して10倍程度の差が存在する。国レベルでこうであるので、地方は惨憺たる状況である。施設を閉鎖するところもかなりでてきている。日本の学芸員はものすごくがんばっているのである。ただ、人数的に活用という側面が弱くなるのは仕方がないのである。文化財保護法ができた背景を考えればわかることであるし、彼らはものすごい数の遺産を守っているのである。現世の人のみならず、将来の人々のためでもある。一度収蔵庫の整理・保管作業を一緒にしたらその大変さがわかるというもの。文化財を扱うのは外の人が思う以上に大変なのである。

文化資源を活かしたい、観光後進国から脱却したいと思うのであれば、10倍とは言わないまでも、学芸員数をせめて2〜3倍に増やし、ミュージアムマネージャーやエデュケーター等をきちんと設置するくらいのことを地方創生担当相の責任で行ってもらいたいと思う。そうすれば、日本の観光の質は高まるであろう。観光だけでなく、教育や地域の質も高まる。そうした人材をうちの大学では以前から育てはいるが、きちんとした就職先がほとんどないのが実態である。できないのに、批判しても何の解決にもならない。劇場音楽堂法の議論の際にも、アートパフォーマンス専門のキュレーター設置を提言したが、結局内容のことは考えても人のことは考えない中途半端な法律になってしまった。

私は以前、国の文化審議会で「学芸員10倍構想」を真面目に提言したことがある。みなさん笑っておられたが、人口も少なくなり、経済も弱くなった今、これからの日本は文化大国として生きられるような国になって欲しいと今でも思っている。
│-│-│2017/04/17(月) 10:20

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